約40万台の電動自転車が空き地に放置。借金の運用益で活動は破綻寸前?

エンタメ

 中国の都市では2020年以降、街の風景が目に見えて変化した。新型コロナウイルス感染拡大に伴って自転車での移動ニーズが増したことで、電動自転車のシェアリングサービス(以下、シェア電動サイクル)が急拡大。

中国ではもともと、どこで乗り降りしてもいい非電動のシェアサイクルが盛んだったこともあり、今では電動自転車が数多く街を走っている。地面にペンキで線を引いた駐輪エリアも設けられ、車両が多数停められている。

中国のシェア電動サイクル(=手前)とシェアサイクル(=奥)

 利用方法は提供元の企業によって異なるが、基本的には駐輪場で車両を選び、スマートフォンアプリで手続きするだけ。電動・非電動を問わず、公式アプリか微信(WeChat)内のミニアプリで自転車のQRコードをスキャンすれば利用できる。降車する時はロックをかければ終了だ。決済方法は、中国人や外国人在住者であれば、銀行口座とひもづいた支付宝(Alipay)や微信支付(WeChatPay)から利用料を引き落とせる。外国人渡航者であれば、WeChatのアカウントにクレジットカードをひもづけるのが一つの手だ。長々と書いたが、百聞は一見に如かず。機会があれば乗ってみてほしい。

40万台の電動自転車が空き地に放置

 中国の調査会社iResearchによれば、19年に中国全土で100万台あったシェア電動サイクルは、20年に250万台まで増えたという。シェア電動サイクルの急速な広がりは利便性を高めた一方、マイナスの意味でも街の風景を変えており、中国で問題になっている。と言うのも、車両が増えすぎた影響で管理がずさんになり、中国湖南省の省都・長沙では、約40万台が計19万平方メートル(東京ドーム4個分)の空き地に放置されているという。

長沙で回収された電動自転車(出典:中国中央電視台)

 19万平方メートルという数字は1か所の広さではなく、43カ所の空き地の面積を合計した数値だというが、膨大な車両が大量に放置されていることに変わりはない。その様子は中国メディアも報じており、空き地にぎっしりと自転車が並んでいる映像は圧巻だ。

 中国メディアによると、大量に放置されているシェア電動サイクルはユーザーに乗り捨てられたわけではなく、ナンバープレートを付ける目的などで業者などによって回収され、空き地に集められたという。

管理があいまいなまま、企業が車両を大量投入

 実は中国では、シェア電動サイクルが自転車と電動スクーターのどちらに該当するのか定義があいまいだ。中国の自治体は市民の電動スクーターにナンバープレートを付けて管理しているが、自転車のナンバープレート設置は義務付けていない。シェア電動サイクルを自治体として管理する仕組みが整っていないのだ。

 そうした中で、コロナ禍による需要の高まりを受け、多くの企業がシェアを獲得しようと膨大な車両を投入した。ひどいケースでは、電動スクーターに酷似したデザインのものを、自治体からおとがめがないことを理由にシェア電動サイクルとして貸し出している企業もあった。そして結局、増えすぎた車両を管理できなくなり、約40万台が空き地に集められた。報道によると、このうち6万5000台は、ひとまずナンバープレートを付けて街に戻されるが、残りは分解してバッテリーなどを外され、処分されるという。

 長沙市の「都市秩序管理所」の所長は、中国メディア「第一時間」の取材に「2019年末の時点で(長沙で)シェア電動サイクルが10万台あったが、2020年のピーク時には46万台まで増えた。空間に対してあまりに多いし、市民からも苦情が来ていた」と語っている。一時は、中国全土の約5分の1に当たる電動自転車がこの都市に集まり、飽和状態に陥っていたのだ。

救急車が通れない事態も

 電動自転車は他の問題も引き起こしている。長沙市などでは、ユーザーが返却した車両が駐輪場にあふれかえり、通行の妨げになっている。電動自転車は重く、通行人が車両を持ち運んでどかすのも一苦労。通常の自転車よりずっとハードなのだ。

長沙で通行の妨げになっているシェアサイクル(出典:三湘都市報)

 歩道だけでなく、車道の邪魔になるケースもあり、救急車がシェア電動サイクルのせいで通行できない事態も発生している。前述の電動スクーター型の車両では、乗り慣れていないユーザーが2人乗りでスピードを出し、歩行者にぶつかって大腿骨骨折の大けがを負わせている。電動自転車が内蔵するバッテリーを狙った窃盗被害も報じられている。

 こうした問題も、企業が車両を投入しすぎたことが原因だ。中国でシェア電動サイクル事業を展開している企業をみてみると、2020年10月の時点で市場シェアトップは滴滴(Didi)が運営する「青桔単車」。2位は阿里巴巴(Alibaba)系の「ハローバイク」、3位はECプラットフォームを展開する美団(Meituan)の「美団単車」だ(中国の調査会社analysis調べ)。

 青桔単車はエメラルドグリーン、ハローバイクは青、美団単車は山吹色がイメージカラー。長沙市の空き地に集められた電動自転車も、この三色で占められていたという。運営元の企業はれっきとしたIT大手だが、「問題が発生するまでは大量にサービスを投入してシェアを確保する」「問題が発生したらその時に対応する」という考えが染み付いており、社会問題につながっているようだ。

エメラルドグリーンの「青桔単車」がシェアトップだ

 こうした価値観は料金設定にも表れている。調査会社iResearchによれば、シェア電動サイクルの原価(車両の代金)は1台5000元(約7万5000円)ほど。利用料は日本のそれより安く、1回当たり約2~4元(約30~60円)だ。路線バスの代金は1回当たり約2元で、中国の交通価格からみれば特別に安いものではない。だが、1日に5人前後が利用すると仮定しても、回収には1年ほどかかる試算になる。後先考えず、勢いだけが目立つビジネスだといえよう。

ユーザーからの“借金”を返せない企業も

 薄利多売のシェア電動サイクルが、それでもビジネスとしてまかり通る背景には、もうけるよりも資金調達による事業拡大を重視する中国スタートアップ界隈の風潮がある。シェア上位の大手企業はまだましな方で、中には投資が先行するあまり、サービス提供がままならなくなったofoという会社もある。

 ofoは当初、賃貸住宅の敷金のような形で、ユーザーから利用料に加えて「デポジット」(保証金)を預かっていた。「取りあえず資金があればなんとかなる」という楽観的なビジネス観で、ユーザーから得たデポジットや、投資家から調達した資金を元手に車両を大量生産していたが、ユーザー増加が思うように進まず、借金だけが膨れ上がった。

規格外の借金を抱えるofoの公式サイト

 返金規模も規格外の中国サイズだ。ofoが返金しなければいけないユーザーや投資家は、20年12月の時点で1650万人に上るが、返金ペースは非常に遅く、この調子でいくと完済まで988年かかるのだとか。同社のサービスは現在ほぼ稼働しておらず、「借金を返せるのか」という観点でしか話題にならない。

 シェア電動サイクルは今後も中国各地の都市に投入され、さまざまなトラブルの火種になりそうだ。時には、自治体から規制を受けることもあるだろう。事業者はトライアンドエラーを繰り返しながら安全なサービス運用を目指すわけだが、それが利益を生むかは誰にも分からない。

 DidiやAlibabaのように、トラブルを起こしながらもシェアを獲得できれば、収支はいつかプラスに転じる。一方で、無計画に車両を増産し、資金を回収できずにいるプレイヤーは、ofoのように借金まみれの結末を迎えるだろう。良くも悪くも先行きから目が離せないのが、中国の自転車ビジネス事情の面白いところだ。

コメント