「うつ病はセロトニンレベルの低下により生じる」という説には十分な証拠がないという研究結果

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病院でうつ病と診断されると抗うつ薬が処方されます。この抗うつ薬は脳内の神経伝達系に働きかける薬で、「うつ病は、セロトニンノルアドレナリンなどのモノアミンという物質の分泌量減少によって引き起こされる」という仮説に基づきます。

しかし、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームが、これまでの研究を精査することで「この仮説が正しいことは証明されていない」ことを改めて示す論文を発表しました。

モノアミンの分泌量が気分障害や不安障害、統合失調症に関連しているという「モノアミン仮説」は1956年にスイスの医師によって行われた臨床実験をきっかけに提唱されました。その後も抗うつ剤の研究が進み、1980年代に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が市場に出回るようになると、「うつ病は神経伝達物質分泌の欠陥によって引き起こされる」と考えられるようになりました。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの精神科医で、今回の研究論文の筆頭著者であるジョアンナ・モンクリフ氏は、「抗うつ剤の処方は1990年代から劇的に増加し、今ではイギリスの成人の6人に1人、10代の若者の2%が抗うつ剤を処方されています」と述べています。

研究チームによれば、うつ病の患者とそうではない患者の血中セロトニン濃度を比較したところ、差は見られなかったと報告する研究があったとのこと。また、神経伝達物質の受容体と輸送体の挙動を調べた研究では、セロトニンの役割を示している部分はあったものの、その結果には一貫性がないと研究チームは評価しています。また、セロトニンと関わるタンパク質の遺伝子を比較した大規模な研究も行われていないことが判明しました。

モンクリフ氏は「否定を証明するのは非常に困難です。しかし、数十年にわたって行われた膨大な研究を精査した結果、うつ病がセロトニン異常、特にセロトニンレベルの低下や活性低下によって引き起こされることを示す有力な証拠はないと言っていいと思います」と論じています。

また、「うつ病がセロトニンの低下や神経伝達物質の不均衡によって引き起こされると患者に言うべきではありませんし、いまだに証明されていないセロトニン異常に抗うつ剤が効くと患者に信じさせるべきでもないというのが我々研究チームの意見です」とモンクリフ氏は述べました。

The serotonin theory of depression: a systematic umbrella review of the evidence | Molecular Psychiatry
http://dx.doi.org/10.1038/s41380-022-01661-0

No evidence that depression is caused by low | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/959220

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