いやー、コレ酷くないかい?
2030年時点の発電コスト 太陽光が最安に 原子力を初めて下回る
2021年7月12日 18時49分
経済産業省は、2030年時点の太陽光の発電コストが原子力のコストよりも下がり、電源別で最も安くなるとの見通しを示しました。太陽光パネルの値下がりが主な要因で、原子力を下回るのは初めてとなります。
「NHKニュース」より
相変わらず紛らわしいニュースで、経済産業省のメッセージだと思ったら、まだ審議会での審議の最中のネタでした。
重要な全体のコストは無視したニュースで、発電以外にかかる全体的なコストも今後、議論する、と書かれています。ですので、あんまりこのニュースに価値は無い。
更に、目の付け所がちょっとオカシイのが、、、、。
初めて原子力を下回る
原子力発電で得られる電力は「高い」か「安い」か
メディアが大喜びした背景には、左派から原子力発電の価格が「安い」ことはオカシイ。反原発だとヒステリックに声があがっていることに関係していると思う。
ただ、現実問題として以下の2点は日本ではなかなか覆せないだろう。
- 新たな原発の用地取得及び建設
- 老朽化した原発のリプレイス
もはや、日本では新たな原発を建設することは、ムリなのではないかと。2番目の方は未だ望みを持ってはいるけれど、それも当面は不可能だろう。そこまで大きかったと思う、あの3.11絡みの事故は。
もう1つ、これまで原子力発電が「安かった理由」は、原発の建設コストの増額と改修コスト、そして廃炉費用に放射性廃棄物の処理費用が想定されていなかったという理由があった。
しかし、現実は廃炉費用や放射性廃棄物の処理費用を載せなければウソだ。
安全面のコストというのは発災リスクまで含めて考える必要があるため(保険の考え方としては常識である)、そこを含めたのが今回の試算なのだろうと思われ、原子力発電をし続けるのは困難になったという印象を付けたいというのが今回の狙いではあろう。
この11円という数字は、福島第1原発事故直後に様々な方が計算した原発コストの中でも低めに出ている数字で、人によっては15円程度だとの試算を出していることもあったようだが、2010年頃には9円程度だった事を考えれば、「さほどあがっていない」とはいえると思う。
参考までに比較を
参考までに過去の数字と比較してみよう。
(円/kWh) | 2010年度モデル | 2021年度モデル |
---|---|---|
原子力発電 | 8.9~ | 11~ |
石炭火力発電 | 9.5 | 13~22 |
LNG火力発電 | 10.7 | 10~14 |
石油火力発電 | 22.1~36 | |
陸上風力発電 | 9.9~17.3 | |
洋上風力発電 | 9.4~23.1 | |
産業用太陽光発電 | 30.1~45.8 | 8~11 |
ちょっと拾えなかった数字もあるのだが、産業用太陽光発電だけ異様に値段が下がっている理由は一体何なのだろうか。
太陽光発電は安くなったのか?
一方で、太陽光パネルの設置費用に関して、今回の試算では随分と安く想定していると思われる。
既にウイグル問題関連で、コストは上がる事が分かっている。
ウイグル問題、太陽光発電に影 パネル主原料5倍に高騰
2021年7月4日 0:30
中国・新疆ウイグル自治区の人権問題が、太陽光パネルの価格を押し上げている。主要な原材料であるシリコンの世界生産の約4割を新疆地区が占め、人権問題で供給に影響が出る懸念が浮上したためだ。シリコン価格は1年間で5倍近くに高騰。日本でのパネル価格も3~4割上がった。6月末にはバイデン米政権が中国メーカーへの制裁を表明し、懸念は現実のものとなった。
「日本経済新聞」より
それを加味した算定であるとは到底思えない。
更に問題なのはこちら。
ただ、太陽光発電は天候による発電量の変動が大きく、実際にはバックアップのために火力発電を確保する必要がありますが、その費用は計算に含まれていません。
「NHKニュース」より
これ1点だけでもおかしいんだよね。どうしてバックアップ電源の話が加味されていないのか。
発電コストを考えるにあたって、出力の調整出来ない太陽光発電は最低限、充電施設が必須である。しかしこのコストは全く考慮されていない。
コレでは原子力発電の不備を笑えないでは無いか。
ただまあ、「割合を増やそう」という方向に舵を切るのであれば、発電コストの単純計算が目安になるのかも知れないな。好意的に捉えればなんだけど。
太陽光発電買い取り拒否とその理由
以前は「買い取り拒否だ」と騒がれたが、今は「出力制限」という表現になっているようだ。
生かし切れない再生エネ、「出力制御」いつ解消? 方法は、課題は
2021/7/11 6:00 (2021/7/11 12:16
政府が再生可能エネルギーの拡大を目指す中、九州では太陽光や風力の発電を一時的に停止する「出力制御」が頻発している。2050年の温室効果ガス排出量の実質ゼロに向け、経済産業省は地域間の送電網を増強して九州外の地域への送電量を増やす方針を打ち出す。ただ、最短でも10年程度の事業期間や巨額の費用など課題が多い。
電力は、需要と供給のバランスが崩れると大規模な停電を引き起こす恐れがある。このため、天候が良く電気の使用量が少ない春と秋を中心に、電力会社が出力制御する仕組みがある。日照に恵まれる九州は太陽光発電所が多く、原発4基も稼働して供給力に余裕がある。九州電力は2018年10月に全国で初めて出力制御を実施し、20年度末までに計160回に上る。
「西日本新聞」より
何が起こっているのか?というと、簡単に言えば太陽光発電を優遇しすぎて雨後の竹の子のように大規模太陽光発電が増えてしまったことで、電力会社が想定している電力網への負荷を超えてしまうおそれが出てきたため、買い取る量を制限し始めたのである。
西日本新聞は「折角作った再エネ電力を生かし切れないとは何事だ!」と騒いでいるが、電力網に流せる電力量というのは、電力会社が計画をしながら設置をしている。電力自由化という流れの中で、発電や送電を分離する議論が出ているが、以前は電力会社が一括で行っていた。
当然ながら、投資に対するリターンがある事が前提ではあるが、「安定的な電力供給」というのは電力会社に課せられた使命である。故に、そこを責めるべきでは無いのだ。
問題は、過剰に作られた太陽光発電による電力を、「電力会社が買い取りを義務化されているのに、買い取らない」という構造になる。
理屈から考えれば、安定的電力供給を妨げるような電力を受け容れないという決定を電力会社側に持たせるのは当然なのだが、驚くなかれ、FIT制度(再生エネルギー発電の強制買取制度)が作られた時点ではその様な事態を想定していなかった。
ところが、問題が出たために法改正をして、電力会社が電力不安定供給を理由に買い取りを制限できる様になったのである。
これを際限なく電力を買い続けるとどうなるかというと、電力供給が不安定化して停電に繋がってしまうと言う、そういう話になる。
こうした問題点は、気まぐれ発電の風力にも起こりえることだが、こちらは建設コストの問題などから主流にはならずに、問題が表面化するようなことも無かった。
安値の背景に家庭への負担増
なお、太陽光発電にはこうしった「買い取り制限」の問題の他にも問題がある。
1つは買い取り単価が下げられたことだ。
事業用太陽光、買い取り12円に下げ 発電事業者の競争促す
2020年2月4日 18:35
経済産業省は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で、2020年度以降、太陽光発電(事業用)の固定買い取り価格を1キロワット時あたり12円と、現在の14円から引き下げる。安い価格で発電する事業者から順番に買い入れる「入札制」の対象も大幅に拡大する。高額買い取りによる育成からコストを重視した競争促進へ軌道修正を進める。
「日本経済新聞」より
この買取価格の値下げが一番今回の経済産業省の数字のネックになっていると思う。
結局この数字の正当性を出すための経済産業省のアリバイ作りのような気がしていて、この数字が現実を反映しているとは言い難い。それは上述した通りの調達リスクがあるためだ。
尤も、太陽光発電パネルの資源は支那でなくても採掘可能なのせ、5倍という状況はそれほど永く続かないとは思っている。が、前のレベルに戻ることはもはや無いと考えてイイだろう。
一方で、こういった太陽光発電を始めとした再生可能エネルギー発電のコストは価格転嫁されている。
再エネ国民負担、標準家庭で年1万円超す 経産省試算
2021年3月24日 17:30 (2021年3月24日 20:11更新)
再生可能エネルギーの普及を支える国民負担が膨らんでいる。再生エネ電力の固定価格買い取り制度(FIT)にもとづく家計負担は2021年度に1世帯あたり1万476円となり、20年度と比べて1割強増える見込み。太陽光発電などの導入拡大に伴って負担が増す。脱炭素社会の実現には再生エネの大量導入が必要だが、負担にも配慮した議論が必要になりそうだ。
「日本経済新聞」より
太陽光発電を支えるために、一般家庭から年間1万円を供出しているというのが現状なのだけれど、残念な事にコレは更に増えるのである。
試算では、ここから10年程度はこの負担は増え続けるようだ。
太陽光関連業者の倒産件数、やや減少も高止まり 負債総額は前年比2倍の486億円に
5/1(土) 12:02配信
帝国データバンクは4月14日、「太陽光関連業者の倒産動向調査 2020年度」の結果を発表した。調査における太陽光関連業者は太陽光発電システム販売や設置工事、太陽光パネル製造やコンサルティングなど関連事業を手掛ける事業所で、同事業を本業としない事業所も含んでいる。
「yahooニュース」より
ただまあ、太陽光発電関連業者が設けているかというと、一部の業者だけで、新規業者は結構倒産しているようだ。
再生可能エネルギー発電を増やすと電気代は上がる
経済産業省の発表
ちなみにだが、今回大喜びしたNHKが報じたのかは知らないけれど、ちょっと前にはこんなニュースが報じられている。
再生可能エネルギー5割でコスト2倍の可能性 政府目標達成へ経産省が試算
2021年5月14日 06時00分
経済産業省は13日、2050年に温室効果ガス排出量を「実質ゼロ」にする政府目標を達成しようとする際、再生可能エネルギーで発電電力量の5~6割を賄うと、発電などのコストが今の約2倍に膨らむなどとする試算を示した。電気料金の上昇を抑えつつ再生エネを最大限導入していくには、コスト低減が課題だと指摘している。
公益財団法人地球環境産業技術研究機構が経産省の委託を受けて試算した。
経産省は昨年12月、50年の再生エネ割合を5~6割とする目安を示した。試算ではこれを基に、再生エネで54%、原発で10%、水素やアンモニアの火力で13%、二酸化炭素(CO2)を大気中に放出しない技術を実用化したガス火力などで23%の発電を賄うと仮定。電力需要が3割以上増える前提で計算した。
「東京新聞」より
チョット算出モデルが現実ではない気もするのだけれど、「電力コストが2倍になるよ」というのは洒落にならない。
こちらの試算は、送電網の増強や蓄電池の設置などを想定している様だ。
経産省は再生エネのコストが増える要因として、設備が消費地から遠いため送電線の増強が必要なことや、発電が不安定になった時のために蓄電池を備えておくことなどを指摘。再生エネ以外でも、水素やアンモニアによる火力発電も燃料の輸送費などが高く、これらを要因に電気料金が上がると説明している。
「東京新聞」より
水素やアンモニアを用いた火力発電というのも、今のところ技術が確立されていないから高くなるのも無理は無いよね。
地方自治体は規制を
更に、太陽光発電、特にメガソーラーに関しては、地方自治体も建設に反対するところが多い様だ。
トラブルが続出で、きちんとやって貰わないと困ると言うことが根底にある様なのだが、他にも様々な理由はあったのだろう。
太陽光発電施設規制の条例 3年で3倍以上 NPO調査
2020年12月12日
「脱炭素社会」の実現に向けてカギを握るとされるのが、太陽光など再生可能エネルギーの普及です。しかし、太陽光発電施設の建設を規制する内容の条例を設けている市町村が、この3年で3倍以上に増えたことが、NPO法人の調査で分かりました。景観を損ねることなどを懸念する住民の声が背景にあります。
~~略~~
内訳を見ますと、68の市町村が建設を禁止したり抑制したりする区域を設けていたほか、25の市町村が建設にあたって市町村長の許可や同意などを必要としていました。
大規模な太陽光発電施設の建設計画に対し住民による反対運動が起きた、岩手県遠野市や静岡県伊東市では、その後、条例によって、いずれも市内全域が「抑制区域」に指定されています。
「NHKニュース」より
熱海の災害などもあって、今後更に規制は厳しくなる傾向にあるだろう。何より、住民感情として「太陽光発電は困る」というものが多い様だ。
これは、単純にパネルが並べられることで災害時のトラブルを引き起こしやすいという事実0に基づく話なので、荒唐無稽なクレーマーとは話が異なる。
国としても設置規制を高めるしか無く、基準に満たない悪質な設置に関しては厳しい罰則を科すような方向に向かうだろう。そうなると、太陽光パネル設置そのものに相当コストがかかってくることになる。
そんな訳で、冒頭のニュースは一体何が伝えたかったのか?その辺りがよく分からないのだ。「安いという試算が出ました!」「……それで?」という話。
単純に事実だけを伝えるニュースであるような印象はあるのだけれど、様々な背景を考えると「おかしな試算が出た」というスタンスで報道すべき話のように思えてならない。
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